競輪界の年間No・1を決定する「KEIRINグランプリ2020」は30日、神奈川県・平塚競輪場で優勝賞金1億340万円(副賞含む)を懸けて行われる。今年のGⅠ覇者と獲得賞金額上位者の合計9選手による一発勝負。最高峰のレースで激突するベスト9を特集記事で紹介する。メインとして地元神奈川での1億円バトルに燃える郡司浩平にスポット。そのほか出場の全選手を取り上げる。(電投番号「35#」)

 
 地元でのグランプリ制覇へ、郡司浩平が自信の走りを見せる。初出場だった昨年は賞金順位で最後の1席に入り、ぎりぎりでの権利獲得だったが今年は違う。11月小倉競輪祭で念願のGⅠ初制覇。タイトルホルダーとなって堂々と年間最高の舞台に立つ。S班戦士として1年間、神奈川だけでなく南関をリードしてきた地区のエース格。「ちょっと年初めはうまくかみ合わないところが大きかったが、だんだん自覚が出てきてしっかり南関を引っ張ろうという気持ちで1年間走れた。その結果がいま出たのかなと。本当にいい流れでグランプリを迎えられているので、気持ち的にもいい状態で入れるんじゃないかなと思っている」。今年最後のGⅠを勝った後だけに、出場9選手の中でも勢いは一番。枠が希望していた1番車に入ったことも追い風。単騎だった昨年と違い和田と2人で南関同士でのラインを組めることも大きなプラスとなる。

 
 28日、29日にメインの11Rを走る同県後輩の2人にも力をもらう。ガールズグランプリを走る佐藤水菜、ヤンググランプリを走る松井宏佑は競輪祭でも郡司の優勝に貢献した。佐藤はガールズGPトライアルで劇的なV。ラストチャンスで権利をゲット。決勝を走った時の心境を聞かれ「私からまず流れをつくって(郡司)浩平選手に優勝を獲ってもらおうと思って。神奈川にいい流れをと」。このバトンを松井が受けて男子GⅠの決勝で果敢に先行。「バックまで死ぬ気で踏んだ。尊敬する郡司さんの前で仕事ができて良かった」。レースの後には郡司の優勝に感激の涙をにじませた。レースは違っても心はひとつ。再びプラスの連鎖を地元の絆で生み出すか。もちろん目標は3人そろっての優勝だ。

 
 また、郡司は3年越しの思いを実らせたい気持ちも強い。当地平塚でのグランプリ開催は17年以来。3年前の3月に、郡司は高松ウィナーズカップでGⅡ初優勝。その時点で、その年の最大目標だった地元GP出場へ大きく前進。4月には川崎記念も勝ち勢いを加速させた。しかし、5月京王閣ダービーを境に状況が変わる。二予で6着に敗れ3走目で落車負傷。その後は思うように成績を残せなくなった。11月小倉競輪祭を終えて年間賞金10位。次点でGP権利を逃した。「3年前はちょっとの差で出られなかったので、その時の思いを晴らすじゃないけど思い切り(悔しさを)ぶつけたいなと」。GⅠを勝ちトップレーサーとなって臨む今年こそ、その無念を消し去る時。歴史に名を刻んだ誇りを胸に頂点へ。条件は十分に整っている。

 
 和田健太郎は6月和歌山高松宮記念杯2着など今年のGⅠで3回、GⅡで1回決勝へ。上位戦線での安定ぶりがGP初出場につながった。「今の南関地区の層の厚さで、僕の方に流れが向いたのかなと思う」。ラインの力があってこそ。仲間への感謝を和田は忘れない。
 
 GPでは郡司との南関連係に集中。22日のリモート会見では郡司の「1年間を通して和田さんとよく連係させてもらったが、一緒の時は自分が前で自力でやらせてもらっていた」のコメントを受けて「先に全部言ってくれたので、郡司の後ろに」。競輪祭では4日目ダイヤモンドレース、決勝と1着の郡司に続けず着外となったが郡司の前にダッシュ強烈な松井がいた。準決では捲って1着の郡司とワンツー。自力の郡司の後ろなら経験を生かせる。好追から直線突き抜けだ。

  脇本雄太はGⅠで優勝2回、3年連続でのGP出場となる。「五輪が中止になってしまったが、その悔しさを競輪にぶつけて、今年1年はすごく満足できる充実した1年になったと思う」。気になるのは競輪祭で落車したケガの影響だが22日の時点で「最初の2週間は治療に集中して、その後からは普段の練習に戻った。まだ完治はしていないが、タイムも出ているし練習の感触としては大丈夫かなと思う」。悪い状態ではなさそうだ。うれしいサプライズは平原康多が自身との連係を選んだこと。「21日に平原さんと電話で話をさせてもらって。誰が後ろに付いてもいつも通りのレースをしたいなと思う」。持ち味を存分に発揮できる喜びをかみしめ、本番で自らのスタイルを貫く。昨年は逃げて2着惜敗。今年こそはの思いで全力を出し切る。
 
 その脇本をマークするのは6月に38歳になった平原康多。「そろそろ獲りたいです」。GP出場11回目になる男の言葉には実感がこもる。脇本は単騎を得意としないイメージ。ラインができることによって水を得た魚のように生き生きと本来の力を発揮できる。超一流の上をいく平原がすんなり番手を回っても差せない可能性だって普通にある。後ろに付くことと、そうしないことのメリットとデメリット。あらゆることを考慮し、ぎりぎりまで悩み抜いた上での決断が吉と出るか凶と出るか。答えは30日、ゴールするまで分からない。今年のグランプリで最大の関心事と言ってもいいかもしれない。
 
 「決めた以上は離れないように。あとは頑張るだけですね」。関東のエースとしてのプライドも懸けての決心。先行日本一を差し切り悲願達成へ。考え抜いての選択を正解にしてみせる。

  昨年からGⅠ、GⅡの決勝で何度も結果を出してきた松浦悠士と清水裕友。22日のリモート会見で松浦―清水での連係を表明した。前後は常に流動的。どうあれ2人のラインが強力であることは変わらない。調子の面では前で戦う松浦が年間を通して充実。1月初戦から11月競輪祭の準決で失格となる前まで20連続決勝進出。優勝はGⅠ、GⅡ各1回、記念3回と全プロ記念1回。抜群の安定感を誇る。それでも本人は不満を口にする。「最後の最後で失格してしまったので、そこは悔いが残る部分がある。1年間決勝に乗りたいなと思っていたので」。心に残った口惜しさは自力でGPを勝つことで吹き飛ばす。「S班としての責任もあるし、自分の気持ちがちょっと変わったかなと思う。去年よりは落ち着いて、そわそわしないで走れると思う」。2度目の頂上決戦で自信の走り。強気な攻めに徹する。
 
 清水は2月豊橋全日本選抜でGⅠ初制覇、7月GⅡ平サマーナイトFでもV。だが、その後にブレーキ。成績が乱れた。今年を振り返り「GⅠ優勝できたのもすごくうれしかったけど、どちらかというと後半の不調の方が印象に残る1年だった。要所要所では優勝できて、いい時もあったけど競輪祭もあんな感じで。逆に吹っ切れたところがある」。GP出場は3年連続3回目。「特に変わらず松浦さんと力を合わせて精いっぱい頑張りたい。後ろでしっかり」。終わりよければ全て良し。昨年立川とは逆の並びで栄冠を目指す。

  脇本同様、五輪が中止となった新田は今年のビッグレースで勝てなかった分も、ここで大一番を獲りにいく。GP出場は連続6回目で通算7回目。「7回目になった今は、過去の成績だったり考え方を踏まえた上で何をすべきか自分の中で答えが出ている気がする。その答えをしっかりやっていくのが一番ゴール(優勝)に近いのかなと」。昨年は後ろの先輩・佐藤慎太郎が優勝。今年は自分が勝つ番。ラインが北で3車となることも好材料。過去のGPと競技での経験も力に頂上制覇だ。
 
 「このレースを走れることに誇りと責任を持ってしっかり頑張りたい」と話すのは昨年覇者の佐藤慎太郎。史上2人目のGP連覇とGP優勝最年長記録更新も懸けての出場。GP覇者として1番車を着て走った1年間について「ずっと安定はしていたのでS班としての責任は果たせたのかなと思う」と納得の様子で振り返りつつ「自分の力でこの場に立っているというよりは前を走ってくれた先行選手、後ろを固めてくれた選手のおかげだと思っている」とも。その気持ちは今年最終出走の大一番にも通じるか。
 
 昨年同様に新田が前にいて、3番手に守沢太志が加わる。レースが大きくなれば、心を落ち着けるのに重要なのはラインの厚み。理想は新田が逃げる展開。番手で役割を果たして直線勝負に懸ける。「連覇を狙うなんていうのは本当に全く思っていません」とは言うが、勝てる展開になればチャンスは逃さない。
 
 獲得賞金9位で最後のGP切符を手にした守沢太志は、穴党が期待したくなる要素を秘めている。今回初出場で登録が秋田。位置が北ライン3番手で、佐藤の後ろ回りということも好走を予感させる。
 
 秋田のGP戦士といえば有坂直樹(64期)だ。06年京王閣で初めてGP舞台を踏んだ有坂は、山崎芳仁―佐藤慎太郎の3番手回りから一発ツモで優勝。守沢と同じく、その時はまだGⅠ無冠だった。22日会見での「初出場だが悔いの残らないように精いっぱい頑張る」の言葉通り、雰囲気にのまれずに、まずは3番手で果たすべき役割をしっかり果たす。最後にゴール前での突き抜けへ。それだけの強さはすでに備えている。また、ガールズGP(28日11R)に出場する石井寛子とは明大時代に自転車部で同じ時期を過ごした仲間同士。石井は17年平塚ガールズGPで優勝。好相性の地で再び結果を出すと、紫紺魂の勢いが守沢にもつながる。ぜひ注目したい。