4月に始まった、先頭固定のインターナショナルルールで実施の新レース「KEIRIN ADVANCE」で、業界初となった取り組みが注目されている。それは、先頭誘導員への車載カメラ搭載だ。従来の男子競輪にある「ライン」の概念がなく、選手同士が個々に競い合うレースが特徴。そんな新レースを楽しむ人に向け、チャリ・ロトとMIXIが誘導員車載カメラの開発&設計を実現。「走る視点」での映像体験を手掛けたMIXI開発本部インフラ室・佐藤太一室長、同インフラ室の鈴木丈之氏に話を聞いた。


 ――レース観戦の大きな楽しみとなるものが迫力ある映像。これまで、選手の車載カメラを手掛けてきたMIXIは今回、チャリ・ロトとともに先頭誘導員にもカメラを搭載した。それに至った経緯は。

 佐藤 私たちはこれまでも、競技中の映像活用に関して、車載カメラをはじめとした技術の実装・運用に取り組んできました。映像系に強いグループでもあり、今回はチャリ・ロトと一緒にできないかということになりました。そんな時に伊東温泉競輪場の福西所長からお話をいただき「KEIRIN ADVANCE」で車載カメラを行うことにしました。もちろんJKA、地元の選手会の協力が得られないとできないので、皆で集まって一緒にやらせていただきました。

 ――実現までに工夫したこと、苦労したことは。

 佐藤 過去に車載カメラを導入した屋内競技場と、今回の伊東の屋外競輪場では、使う機材の仕様が違います。だから、今回は雨が降ったら実施しないと決めていました。幸い3日間とも晴れて、雨は降りませんでした。搭載するカメラは防水でしたが、映像伝送機が非防水でして、濡れたらダメだったので晴れて良かったですね。そして、何より、カメラの落下防止に気を遣いました。

 鈴木 そうなのです。伝送機を固定する箇所は、最初は上の部分だけでしたが、それを2箇所にしました。落下防止として、下の部分にも台座を追加し、結束バンドで固定しました。

 佐藤 カメラ自体にも落下防止のワイヤーがついていますが、さらに強固なものにしました。

 鈴木 今回は準備の時間が限られていたので、市場にある機器、パーツを多く部品に当てました。

 佐藤 既製品を組み合わせた理由は映像伝送遅延の少なさ、映像のブレをなくすためです。

 鈴木 レースカメラとの遅延差は0.1秒くらいですね。

 佐藤 オペレーションにも影響はない程度です。あと、たくさん耐久テストもやりました。節間の総走行距離を超える約50Km、全部放送できるか。事前にテストで走りました。

 鈴木 実際の競輪のスピードに耐え、映像が途切れずに伝送できるか。バイクで80キロくらいで走ってもらい試しました。

 ――取り組みを実施してからの課題は。

 佐藤 誘導員や選手の皆さんは機材の重さは気にならないと言っていましたが、太ももがマウントに当たるということでした。走行に支障はないが、当たることは当たると。次回に備えて、今より薄い部品を作っています。

 鈴木 課題は雨天対応ですね。将来的には完全防水にしたいです。

 ――誘導員、選手、ユーザーなど周囲の反応について。

 鈴木 控え室でモニターを見た他の誘導員の方から「オーッ」という歓声が挙がりました。ベテラン選手でも見たことがない映像だったようで「こういう風に映るのか」と驚いていました。ユーザーの方からは「迫力、臨場感がある、推しの選手を見たいからよかった」という声が寄せられました。

 佐藤 ガールズでは、併走する場面などカメラ映えのするレース展開が何度もありました。

 ――今後に向けて意気込みを。

 佐藤 誘導員への車載カメラの実績ができたので、今年度中にぜひ、もう一度実施したいですね。新しい文化、映像リノベーションとして根付いてほしいです。

 鈴木 現状「KEIRIN ADVANCE」はミッドナイトで実施しているので、お客様は会場に入れません、ぜひ配信で見ている方に映像を楽しんでもらいたいですね。

 ――ありがとうございました。


【協力競輪場】伊東市観光経済部公営競技事務所 福西淳所長のコメント
 レース全体として、事故もなく、円滑に業務ができたものと捉えている。レース映像についても、アドバンスということで、横の動きがない分落下のリスクは下がるが、男子については、並走など迫力が伝わりにくい面もあった。
 しかしながら、ガールズケイリンについては、並走もあり、仕掛けも遅いことから、お客様にも楽しんでいただけるものとなる新たな可能性を感じた。
 今後競輪界での使用については、誘導退避までの映像となる限界、機器の認可を含めた対応策、コストの面などが課題と捉えている。
 ベテランの競輪ファンからは、車載カメラより、アドバンスに対する厳しい意見が多かった、新しい取り組みへのチャレンジに対する競輪ファンからの応援意見も多くあり、勇気づけられる。
 今後についても、競輪界発展のため、このようなチャレンジに積極的に協力をしていきたいと考えている。

伊東温泉競輪ホームページ
https://www.itokeirin.com/


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