先行は競輪の華。レースの先頭で風を切り裂き、真っ先にゴールを駆け抜ける。簡単なようで最も脚力が必要な戦法。だからこそ新時代の扉を自らの先行力でこじ開ける若武者のひたむきな走りは、ファンの心をつかんで離さない。
「先行で記念を獲りたいと思っていた」
名古屋記念でGⅢ初制覇を飾った真杉匠(23=栃木、113期)の言葉だ。記念(GⅢ)を勝つのは一流選手の証。それを逃げ切りで決めたかったという思いを聞いた時、スター誕生を願う1人として心底うれしかった。
内容にこだわったのには理由がある。「小細工して勝っても頭打ちになりますから」。大物はいつの時代も競走のスケールが大きい。目先の勝利にこだわらない。こだわるのは第一にレース内容だ。
レジェンドが先行魂に火を付けた。20年3月の久留米GⅢ。当時、S級へ上がったばかりの真杉は競走得点96点ほど。最終日の敗者戦で武田豊樹と連係して捲り不発。共倒れに終わった。その帰り道。福岡空港まで同じタクシーに乗せてもらったという。そこで「特別(競輪)の準決勝くらいまでは先行で勝てないとダメだよね」と武田が漏らした。当時の真杉は心の中で「そんなの無理、無理」と思ったそうだが「それをやってきた人の言葉だから重みがあった」
あれから2年。真杉は先行でGⅢを勝てる選手にまで成長した。頭をかきながら恥ずかしそうに武田とのエピソードを教えてくれた23歳の走りには華がある。地元で行われた宇都宮ウィナーズCは二予で敗れたが、その悔しさをバネにもっともっと強くなる。
◇小野 祐一(おの・ゆういち)1983年(昭58)10月26日生まれ、秋田県出身の38歳。06年スポニチ入社。競輪取材歴は大阪本社で2年、東京本社で約11年、西部総局で2年。全国各地の競輪場でS級、A級、ガールズの選手を取材したのはスポニチ史上初めて。