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【記者コラム】選手の人生模様が見える〝強制引退〟回避争い

 「よしっ、よぉしっ」。松戸ミッドナイト1R、チャレンジ一般戦のゴール後。21時前の静寂なバンクに1着を獲ったベテラン選手の雄叫びが響き渡った。現行の競輪で最も格が低いレース。それでも選手を続けるために、死にものぐるいだ。

 代謝制度。毎期30人が〝強制引退〟いわばクビになる。残酷ではあるが、競走のレベルを保つためにも必要なこと。2期連続で競走得点が70点未満で、さらに直後の期(今期)も加え3期平均得点も70点未満。これに該当する選手の中で下位30人が毎期クビとなる。

 「しがみついてやりますよ」。松戸で雄叫びをあげたベテランは言う。本来はラインの先頭で戦っている選手だが、代謝のボーダー上。同地区の選手と話し合い単騎戦を選択し、着を意識した走りにシフトしている。さらに、年齢が倍も離れた後輩の自転車を借りて試行錯誤。選手を続けるためには何でもしている。同じ逆境に立たされている他の選手にも話を聞くと「同期とまだ走りたい」、「弟子の初優勝を選手として見たい」、「家族のために走らないと」。理由はさまざまだが、競輪だけではなく、人生そのものを懸けて戦っていることがよく分かる。

 「競輪のおもしろいところって何だと思いますか」。東京五輪代表の橋本英也(27=岐阜)に質問されたことがある。しばらく考えていると橋本は「バックグラウンドが見えるんですよ。競輪選手には」。代謝争いがまさにそうかもしれない。家族、弟子、仲間、自分。それぞれの理由から絶対に譲れないのだ。

 11月18日に初日を迎えるGⅠ競輪祭。超一流たちがGPの9つの椅子を争う6日間の最終決戦。そんな華々しい舞台の裏では、誰も座りたくない30の椅子を逃れるための、全てを懸けた戦いがある。GP争いだけではない、泥臭くも熱い〝競輪らしさ〟にも注目してほしい。

 ◇渡辺 雄人(わたなべ・ゆうと)1995年(平7)6月10日生まれ、東京都出身の26歳。法大卒。18年4月入社、20年1月からレース部・競輪担当。愛犬の名前は「ジャン」。寛仁親王牌で6桁配当を的中させたが、気づけばもうない…。

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