
「レース後の選手から湯気が出ている」。8月17日まで函館で行われたオールスター競輪のメインアンバサダーを務めた元TOKIOの松岡昌宏が、トークショーで口にしたひと言。そのままの意味で汗が水蒸気と化していると表現したのだろう。ただ、個人的には〝闘志〟の比喩にも感じた。そんな闘志をむき出しに北の大地で大暴れしたのが鈴木玄人(29、写真=東京・117期)だった。
GⅠ初出場となったオールスターで③②②⑥①。持ち前の縦横無尽な走りで準決まで勝ち上がり、最終日は真杉匠の番手で仕事をして見事なチョイ差し。全国に名前を売った。ただ、本人は納得せず。「今回はラッキーボーイだった。実力で安定して勝ち上がれるように練習します」とさらに闘志をたぎらせる。
〝最強の自在選手〟へ。強さの礎には己を貫く気持ちと、地道な積み重ねがある。昨年のFⅠ戦、タテヨコナナメに走って1着をゲットした。するとレース後に実績ある中堅選手に「落としてもいいと思って走っているならやめた方がいい」とかなりの迫力で注意を受けた。ただ、ひるむことはない。「それはないです。そう思って走ったことは絶対にありません」とキッパリ。己の戦法に絶対的な信念を持ち、貫こうとする強さを感じた。
闘志をたぎらせながらも努力は地道。デビュー6年目でここまで成長した理由を聞くと「練習してノートを取っての日々の繰り返しをしているだけで、時間と運が解決してくれた」と淡々。養成所から毎日、練習内容や反省をメモ。そのノートは20冊を越えた。大味なレースとは裏腹に、自分を振り返り、反復、そして継続する。マメな積み重ねも強さの秘訣(ひけつ)である。
来月は2度目のビッグとなる共同通信社杯(福井・9月12~15日)が控える。意気込みを尋ねると「仕上げます!」と力を込めた。1本芯が通った男。オールスター以上の〝たぎった〟レースを見せてくれるだろう。
◇渡辺 雄人(わたなべ・ゆうと)1995年(平7)6月10日生まれ、東京都出身の30歳。法大卒。18年4月入社、20年1月からレース部・競輪担当。22年は中央競馬との二刀流に挑戦。23年から再び競輪1本に。愛犬の名前は「ジャン」。