
「特昇」は3場所連続完全優勝で特別昇級、及び特別昇班する制度。現在はA級1、2班からS級2班へ昇級、A級3班からA級2班へ昇班する。S級とA級の2層制(02年~)へ移行したことで昇級と昇班に分かれたが、以前は「特進」でA級→S級、B級→A級の特別昇級を意味した。
特進の条件は段階を経て厳しさを増した。私が記者デビューした87年は小橋正義氏(59期=引退)が「僕の時代の特進は〝3場所連続優勝〟でした。豊田知之(岡山=引退)の次に同期2番目で特進したことを覚えています」と振り返る。例えば②③❶が3場所続いても特進できたのだ。その後は3場所連続優勝に初日と2日目の着順が2着以内(連に絡み車券に貢献)の条件が加わり、そして現行の3場所連続完全Vとなった。また2層制以降はレインボーカップ(選考期間における平均競走得点上位9選手で争う単発レース。1~3着が特昇)が加わり、特昇の機会が増えた。
3場所連続完全Vといえば若手有望選手の通過点。タイトルホルダーの多くは特別昇級したし、デビュー直後からの連勝も多い。すなわち3場所連続完全Vで特昇に臨む選手は上昇中の20歳代のイメージが強い。
しかし43歳にして3場所連続完全Vを狙える位置にいるのが伊藤成紀(大阪=90期、画像)だ。伊藤は8月27日決勝の宇都宮で2場所連続完全Vを達成。レインボーカップでの特昇は3回経験があるが、9月14~16日の函館FⅡで自身初の3連続完全VでS級復帰を目指す。
05年デビューの伊藤はダービー、オールスターの出場歴もあるが「10年以上前から腰痛との戦いです。背骨の腫瘍の精密検査をしたり、何軒も病院を巡りました」と振り返る。常に腰痛との付き合いでA級に3回降級、その中でもS級に復帰してきた。今期は2班で失格もあるため「(2連続完全Vで)ここまで来たら頑張りたい」の思いは強い。「S級で走るとファンの方々の期待値、熱量の違いを感じます。その中で走りたい」。14~16日の函館ミッドナイトで伊藤の走りを応援したい。
◇中林 陵治(なかばやし・りょうじ)熊本県八代市出身の63歳。慶大卒。87年5月の花月園新人リーグ(59期生)で競輪記者デビュー以来、現場取材一筋38年。デビュー戦から見た選手で最強は神山雄一郎、最速は吉岡稔真。9車の勝負レースは5車の結束、番手捲り。