競輪を統括するJKAは20日、元Jリーガーで競輪選手の北井佑季(35=神奈川)から禁止薬物であるタンパク同化男性化ステロイド薬「メタンジエノン」の代謝物が検出されたと発表した。北井は競輪で9人しかいないS級S班にランク付けされるトップ選手。
KEIRINグランプリ2024(静岡、優勝賞金1億4000万円)の前日、昨年12月29日に行われたドーピング検査で禁止薬物が検出された。
JKAは北井のレース斡旋を全て削除し、受賞が決まっていた24年特別敢闘選手賞から除外することを決定。今後の処分は追って発表するとした。
ドーピング違反と認定された北井
筋肉増強剤 ステロイド薬検出
競輪界に激震が走った。北井は昨年、KEIRINグランプリ前日の12月29日にドーピング検査対象選手に選定され、検査を受けたところ、禁止薬物であるタンパク同化男性化ステロイド薬「メタンジエノン」の代謝物が検出。JKAがドーピング違反と認定した。
デビュー1年 超速S級昇格
北井は10~18年にJFLとJリーグでプレー。サッカー選手引退後、日本競輪選手養成所の入所試験に合格し、21年5月に競輪選手としてデビューした。
高い身体能力と競輪界トップクラスと言われる練習量で急成長。デビューわずか1年でトップクラスのS級に昇格した。23年9月にGⅢ初優勝を飾ると、昨年6月の高松宮記念杯でGⅠ初制覇。
他のプロスポーツから30歳を超えて移籍した選手の中でも、異例のスピードでスターダムを駆け上がり、12月にはその年の頂点を決めるKEIRINグランプリ初出場も果たした。今年は競輪界に9人しかいないS級S班として業界を引っ張っていくはずだった。
24年6月の「第75回高松宮記念杯競輪」を制した北井(左から2人目)
24年特別敢闘選手から除外
JKAは2月20日現在、北井の全てのレース斡旋を削除。26日に表彰式が予定されている24年特別敢闘選手から除外することも決定した。
JKA木戸寛会長は「今回、トップ選手からドーピング禁止物質が検出されましたのは誠に遺憾であり、お客さま、競輪関係者の皆さまにご迷惑とご心配をおかけする事態となりましたことをおわび申し上げます」と謝罪。今後の処分については追って発表するとした。
北井から検出されたタンパク同化男性化ステロイドは、性腺機能低下症の治療薬として使用される薬。タンパク質の合成を促すことで筋肉を増加させる効果もあるとされている。
北井が所属する日本競輪選手会の安田光義理事長は「ドーピングの撲滅に向け取り組んでおりますが、今後、このようなことがないよう会員に対し指導を徹底し、さらなる再発防止に努めてまいります」とコメントした。
▽S級S班とは 6つにランク分けされる男子競輪選手の中の最上位ランク。
1年間に6回行われるGⅠ競走優勝者、年間獲得賞金上位者の計9選手が毎年12月30日に行われるKEIRINグランプリに出場。翌年のS級S班となる。
2165人(20日現在)のうち9人しか入ることができず、赤いレーサーパンツ、通称「赤パン」を履くことが許される。
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12年、町田時代の北井
【記者の目】ファンの為にも検査体制の見直しを
どの競技でもドーピング違反は裏切り行為だが、公営競技においての罪は特に重い。ファンが命の次に大切なお金を選手に託しているからだ。単なるレース結果の予想だけでなく、選手の純粋な努力や戦ってきた姿を見てお金を投じる。ナチュラルこそが大前提だ。
業界内でささやかれている処分はS級S班剝奪。だが、裏切ったのはファンだけではない。仲間である選手も裏切った。競輪はラインを組んで戦う。基本は同じ地区でラインを組むが、絶対に組まなければいけないわけではない。仮にステロイドを断ち、復帰したとしても、信頼を失った北井はラインを組めない可能性もある。皆が必死にペダルをこぎ、汗を流し、自転車のセッティングに悩み…。そんな努力を安易に飛び越えてしまったのだから当然だろう。
これまでも抜き打ち検査は行われてきた。だが、それでもドーピングに手を出す選手がいたこともまた事実。ファンから求められるのは、検査態勢の見直しと信頼回復に努める姿勢だろう。安心して車券を買い続けたい一人としても切に願う。(競輪担当・渡辺 雄人)
◇北井 佑季(きたい・ゆうき)1990年(平2)1月27日生まれ、横浜市出身の35歳。10年に近大を中退、当時JFLの町田ゼルビアに加入。18年までJリーグ計4チームでプレー。サッカー引退後、日本競輪選手養成所119期生の入所試験に合格。21年5月に静岡競輪場でプロデビュー。昨年6月の高松記念杯でGⅠ初制覇を飾り、12月のKEIRINグランプリ初出場(9着)。25年のS級S班入りを決めた。通算成績は345戦163勝。総取得賞金は2億933万円。1㍍69、78㌔。血液型O。