今年は2月の豊橋全日本選抜から11月の小倉競輪祭まで男子のビッグは全て現場で取材させてもらった。多くの興奮と感動の場に居合わせた。特に印象的だったシーンを紹介する。
①6月高松宮記念杯・古性優作の涙
古性は求めるレベルが高く、勝っても納得せず、負けても己を律して感情を出さないことが多い。ただ、この時ばかりは違った。開催中に「父であり、師匠的な存在だった」と慕う郡山久二さん(大阪・55期)の訃報にふれた。「個人的に優勝しないといけない理由がある。(郡山さんに)笑われへんような力を出し切るレースをしたい」と恩師への弔い星を誓ったが決勝2着。レース後、声色こそ変わらなかったが、取材を受ける古性の頬にスーッと涙が伝った。王者に人間味を感じるとともに、とてつもない覚悟で戦っていたことを痛感した。
②8月オールスター・脇本雄太の充実した表情
決勝で脇本が果敢に風を切り、同県の後輩である寺崎浩平の優勝に貢献した。レース後、近畿を長く引っ張った村上義弘氏が「いいものを見させてもらった」とねぎらった。すると脇本は「俺、いつまでこれをやらなくちゃいけないんですかね」。決して怒っているわけではない。これまで多くの先輩のVに貢献したが、初めて後輩に優勝をもたらした。後継者とも言える男のVに、にこやかな表情を浮かべ充実感を漂わせていた。
もうひとつ、オールスターの最終日。法大自転車競技部卒の寺崎が優勝した後に、同大同部卒の阿部拓真が「(寺崎と)同い歳だっけ?良かったね」と法大卒の記者に話しかけてきた。「いや、(寺崎が)2つ上ですね。次は阿部さんの番ですよ」と返すと「2回も落車しているようじゃ無理でしょ(笑い)」と開催中2度の落車を自虐的に笑っていた。阿部先輩は先月の競輪祭で優勝。本当に阿部さんの番だったじゃないですか!
◇渡辺 雄人(わたなべ・ゆうと)1995年(平7)6月10日生まれ、東京都出身の30歳。法大卒。18年4月入社、20年2月からレース部競輪担当。22年は中央競馬との二刀流に挑戦。23年から再び競輪一本に。愛犬の名前は「ジャン」。競輪祭決勝のコラムは阿部から狙ったが超痛恨の2着抜け…。


