ニュース&記者コラム

【記者コラム】先行貫く奥井に敵からも賛辞

 先行は競輪の華。6月30日、平塚オールガールズの準決で美しい華が咲いた。咲かせたのは奥井迪(40=東京・106期)。「10周年ということでお客さんもたくさん来て、応援してもらっていた。だからこそ自分がやってきたことで勝ちたかった」という逃げ切りはライバルをも沸かせた。
 最終ホーム2番手から無理やり仕掛け先手を奪う。3コーナーで太田りゆが飛んできた。「奥井さん、奥井さんっ!」。地面をバンバン蹴りながら叫ぶ声が聞こえた。思わず声をもらしたのは奥井の車券を買っていたファン、ではない。レースを見ていた尾方真生だった。先行基本に戦う23歳にとって奥井は憧れ。「やっぱりかっこいい」と拍手した。また、奥井と互いに尊敬し合う児玉碧衣も「自分のレースの前でなかったら泣いていました」と感激。敵から賛辞を送られる。選手にとってこれ以上の評価はない。
 ガールズの先行は圧倒的に不利。ラインがない、守ってくれない。脚力に差のある開催ならいいが、強豪がそろえば〝いい目標〟になってしまう。ただ、だからこそカッコイイ。奥井は「私にはこれしかないですから」と笑うが、普通は〝これ〟ができない。ベテランの域に入ってこようが走りは不変だ。
 ガールズケイリンは日々進化しレベルが上がっている。しかし、残念なことに厳しい位置獲りによって落車、失格がかなり増えている。だからこそ、奥井のレースにはスカッとした。脚質、賞金、権利などがあるのは分かる。無論、逃げるだけが正解ではない。それでも、人の心を動かすような力と力のぶつかり合いをもっとみたい。奥井にはまだまだ華を咲かせ続けてほしい。結果を残すためにも、未来のガールズケイリンの手本としても。

 

 ◇渡辺 雄人(わたなべ・ゆうと)1995年(平7)6月10日生まれ、東京都出身の27歳。法大卒。18年4月入社、20年1月からレース部・競輪担当。今年から中央競馬との二刀流に挑戦。愛犬の名前は「ジャン」。現在は競馬取材のため、奥井の故郷・札幌へ出張中。

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