脇本雄太(35=福井)が全日本選抜を優勝、22年の新田祐大(39=福島)以来、5人目の「全冠制覇」を達成した。競輪史の中で〝わずか5人〟という数字が偉業中の偉業を物語る。
初代全冠制覇は88年の井上茂徳氏(佐賀=引退)。2人目は90年の滝澤正光氏(千葉=引退)。
井上氏は78年デビュー、滝澤氏は79年デビュー。当時は「4特時代」で日本選手権、高松宮杯、オールスター、競輪祭の4大会が特別競輪と呼ばれる最高峰の大会。この4大会全てを優勝することが全冠制覇だった。後に全日本選抜とグランプリが始まったのは85年。当時の全冠制覇の定義は「4特全冠優勝」。しかし井上氏が全日本選抜2回目の86年、滝澤氏が同3回目の87年大会を優勝。両氏の強さが4特を〝5特〟に変えてしまったのだ。ちなみに寛仁親王牌は94年に特別競輪に格上げされ、以降「6大特別」になった。
99年に3人目の全冠制覇を達成、昨年12月に引退した神山雄一郎氏の「GⅠ優勝16回を振り返る」の3回目は95年6月の高松宮杯(以下、敬称略)。当時は準決勝が東西王座戦形式で行われ、東日本が5人、西日本が4人勝ち上がった。決勝戦の並びは神山を先頭に戸辺英雄(茨城=引退)―尾崎雅彦(東京=引退)―阿部文雄(東京=引退)―高橋光宏(群馬=引退)の関東5車で結束。西日本は三宅伸(岡山=引退)を先頭に4車で結束したが神山が脚力の違いを見せつけて完勝。神山は「5番手まで固めてくれたことが一番の勝因」とラインの仲間に感謝した。
神山は94年に続いて高松宮杯を連覇。宇都宮がホームの神山は500走路がうまくて強かった。また宇都宮記念が5月に開催されることで地元記念→高松宮杯(当時はびわこ競輪場の500バンク開催)は仕上がりがいい時期だった。
なお、地元ファンに向けた神山の「引退報告会」は3月15日に宇都宮競輪場で行われる。
◇中林 陵治(なかばやし・りょうじ)熊本県八代市出身の62歳。慶大卒。87年5月の花月園新人リーグで競輪記者デビュー。鬼脚・井上茂徳の追い込み、怪物・滝澤正光の先行に即、魅了されて以来、現場取材一筋38年。9車の勝負レースは5車の結束、番手捲り。