レジェンドの〝魂〟が完全燃焼した。GP2勝、GⅠ6勝の村上義弘が現役引退を表明。GⅠ初制覇を飾った02年全日本選抜(岸和田)を学生バイトの落車救護員としてバンク内側から見ていた記者は、地鳴りのような歓声が今でも耳に残っている。村上の走りにほれて競輪記者を志した。

 逆境に強かった。練習中の落車で肋骨(ろっこつ)を骨折しながら制した12年グランプリ(京王閣)。雨が降りしきる中での単騎捲りはベストレースだ。08年高松宮記念杯(びわこ)の初日選抜も名勝負。逃げた稲垣裕之の番手で大塚健一郎との競り合いに勝つと、捲ってきた紫原政文をブロックして返す刀で差し切り勝ち。千両役者はゴール後すぐに両手を挙げてガッツポーズした。

 記者の一番の思い出は07年共同通信社杯(向日町)の特集記事で練習後の村上兄弟を取材した時だ=写真。当時記者2年目。極限の緊張の中で話を聞いたが、弟・博幸を前にした兄・義弘は柔和なまなざし。この写真からも伝わるだろう。レース開催中とひと味違う兄弟愛をかいま見てトリコになった。

 市田佳寿浩氏(引退)、稲垣との熱い絆も感動を呼んだ。小野俊之との地区を越えた連係や、伏見俊昭と先行日本一を懸けたバトルも懐かしい。深谷知広がデビューした時は大きな壁となった。ほとばしる闘気、放たれるオーラ。レース後のねじり鉢巻き姿がもう見られないのはさみしい限り。数々の伝説をつくった京都のカリスマは唯一無二のヒーローだ。

 ◇小野 祐一(おの・ゆういち)1983年(昭58)10月26日生まれ、秋田県出身の38歳。06年スポニチ入社。予想では調子、ラインの結束力を重視。取材で感じたメンタルが及ぼすレーススタイルの変化も推理に生かしている。