バンクに残る亀裂

 ひび割れが残った熊本バンク。そこから見渡す景色は4年前と何も変わっていない。中川は静かに本音を語った。

 

 「熊本の街は震災当時を忘れるぐらい元に戻った。復興したと感じることは多いけど、競輪場だけはそのまま残されている」

 

 破損して手つかずの窓ガラス。亀裂が入った特別観覧席。時計の針は止まったままだ。

 

 16年4月14日に故郷を襲った大地震。熊本競輪場は甚大な被害に遭い開催休止に追い込まれた。当初は21年末の再開を目指しバンクや施設が改修される見込みだったが、解体や再建による費用が予定を上回り、再建計画は事実上の白紙となった。

 

 熊本生まれ熊本育ちの中川も震災の被害を受けた。自宅の隣に所有していたアパートが半壊。屋上の貯水タンクから大量の水が流れ込み、取り壊しを余儀なくされた。

熊本競輪場のバンクに残った亀裂

「練習なんてできる状況ではなかった。出場も迷ったぐらいで元気な姿を見せたいだけだった」